JLラングラーに数週間乗る機会がありました。ダウンサイジング2.0L直列4気筒ターボエンジンと8速オートマチック・トランスミッションの組み合わせが好印象だったので興味を持ち、エンジンについてマニュアルやネットで調べてみました。その内容を自分のインプットを目的としてこの記事を書きます。勿体なかったですが今回はオンロード走行のみで、オフロード走行とけん引は試すことができませんでした。
概要
2.0L GME T4ハリケーンエンジンは、直噴式2.0L直列4気筒ターボチャージャー付きガソリンエンジンです。FCA(現ステランティス)のグローバル戦略を担うミディアム・サイズのエンジンです。
FCA・グローバル・ミディアム・エンジン
グローバル・ミディアム・エンジン(GME)は、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA。現在はステランティス N.V.)傘下のアルファロメオ、クライスラー、ダッジ、ジープの各パワートレイン部門による合弁事業で開発されたエンジンファミリーです。2016年から生産が開始されました。
フィアットとクライスラーが合併し水平的統合を始めた時、それまでの両社のエンジン開発アプローチが大きく異なることは明らかでしたが、両社の6気筒以下のエンジンを全て入れ換えるとして誕生する2つの4気筒エンジン、GSE(グローバル・スモール・エンジン)シリーズと、本記事のGME(グローバル・ミディアム・エンジン)シリーズがその答えと言えます。
GMEは更に2つのシリーズがあり、1つはアルファロメオ社がジュリアとステルヴィオ向けに開発(プロジェクト「ジョルジオ」)で、2016年型アルファロメオ・ジュリアに搭載され、その後ステルヴィオが続きました。もう1つはFCA US社がクライスラー、ダッジ、ジープなどのアメリカ車向けに開発しました(プロジェクト「ハリケーン」)。アメリカでは2018年にジープ・JLラングラーに初めて採用され、その後、ジープ・KLチェロキーが続きました。
ハリケーン
GMEには商号がありませんでしたが、その開発プロジェクト名が「ハリケーン」でした。古いジープのハリケーン・エンジンに因んだのではなく、戦闘機の名前とのこと。
ステランティスは2026年からGME-T4をアップデートしたHurricane GME-T4 EVOエンジンを投入することを発表しました。
ステランティスにはもう一つの「ハリケーンエンジン」(Hurricane GME-T6)があります。直列6気筒ツインターボエンジンで、5%未満の部品を既存のエンジンから流用しており、ボア×ストロークはGME-T4と共通です。将来的にダッジ、ジープ、ラムの主力エンジンとするべく移行計画が進められているようです。
2.0L GME T4 ハリケーン vs. 2.0L GME T4 ジョルジオ
多くの部品を共有している2つのエンジンですが、違いも多くあるようです。部品供給側の都合で水平統合したと思えば、メーカーによって別プロジェクトとしてエンジン開発をして、異なるテクノロジーを採用しているのは興味深いです。愛される自動車メーカーを作るにはブランディングが必要なのだと推測します。
マルチエア
ジョルジオ・プラットフォームに搭載されるGMEにはマルチエア機構が採用されています。カムシャフトを使わずにエンジンバルブのリフト量とタイミングの自在な制御を可能にするハードウェアと燃焼制御に関連するフィアットの一連のパワートレイン特許技術がベースで、電気油圧式制御を介して完全可変なバルブコントロールが行います。
このマルチエア機構は、FIAT/SCHAEFFLER が特許取得済みの小排気量エンジン技術で、北米でクライスラーグループがフィアットから独占的に提供を受ける技術です。
インテーク・バルブはカムシャフトで駆動されないため、アルファロメオ版はSOHCとなっています。(ジープはDOHC。)
ECU
ジョルジオはマニエッティ・マレリ社のMM10JA ECU、ハリケーンはコンチネンタル社のGPEC4 ECMが採用されています。
各部
シリンダー・ブロック
シリンダーブロックは砂型鋳造アルミニウム製です。オープンデッキ構造で上面のボア間には水路が設けてあり、シリンダー上死点側を積極的に冷却しています。
シリンダーには耐久性を高めるために鉄材のシリンダーライナーが使用されます。各シリンダーにはオイルジェットが備わり、シリンダーとピストンの冷却と潤滑を促しています。
シリンダーヘッド
シリンダーヘッドは鋳造アルミニウム合金製です。燃料効率と性能向上を目的とするセンターインジェクションの直接燃料噴射と高タンブル吸気ポートが特徴と言えます。シリンダーヘッドには水冷式エキゾースト・マニホールドが鋳込まれて内蔵される形になっていて、エンジンの信頼性を高めると同時に、排出ガスを低減しています。
EGR(Eexhaust Gas Recirculation / 排気再循環)はエキゾースト・マニホールドから取り込んだ排気ガスを再度吸気させます。取り込んだ排気ガスの温度を冷却水によって低くする水冷式EGRクーラーが備わります。
ターボ・チャージャー
ターボ・チャージャーはツイン・スクロール・ターボが採用され、低回転域でのレスポンスとパワーを向上させています。シリンダーヘッドと一体化されたエキゾースト・マニホールド内には電子制御ウェイストゲートが設置されています。
エキゾースト・マニホールドは水冷式になっていて、ターボを冷却しエンジン暖機時間の短縮を助けます。吸気系に水冷式チャージエアクーラー(インタークーラー)が組み込まれています。冷却水の循環に関しては、可変流量ウォーターポンプに加えて電動の補助ウォーターポンプが装備されており、インタークーラー、ターボ・チャージャー、スロットルボディ、EGRに必要な冷却を行います。
燃料系
多孔ノズルのセンターインジェクションによる直接燃料噴射とターボチャージャーの組み合わせにより、より効率的な燃焼、排出ガスの低減、そして性能向上が実現されます。燃料ポンプは2,900 psi高圧コモンレール噴射システムに燃料を供給します。この高圧により燃料の微粒化が向上し、ポート燃料噴射システムよりも精密な燃料供給を可能としています。
バルブトレイン
1気筒4バルブ方式の16バルブです。GME T4ハリケーンエンジンはDOHCで、2本の中空カムシャフトがローラー・フィンガー・フォロワー(ロッカー・アームがシーソーに対して、フィンガー・フォロワーはスイングアーム式)を押し下げる事でバルブを開きます。
エキゾースト・バルブは、ナトリウム封入式エキゾーストバルブが採用されています。
VVT:可変バルブタイミング
2本のカムシャフトには独立したカム位相制御が行われ、エンジンの負荷と回転数に応じてバルブタイミングを最適化します。
クランクシャフトから低摩擦タイミング・チェーンによって駆動力がカムプーリーに伝えられます。カムプーリーとカムシャフトの間には油圧室が設けられてオイルで満たされており、カムシャフトは油圧室のオイルに押されて駆動されることになります。この油圧室は進角側と遅角側に分かれていて、電動アクチュエーターがこの油圧室の片側に油圧を掛けることでカムシャフトとカムプーリーの位相が変化します。
クランクシャフト
クランクシャフトは軽量で低フリクション。5ベアリングです。メインジャーナルのベアリングキャップは4本のボルトで固定され強化されています。メインギャラリーから圧送されたエンジン・オイルの一部は、クロス・ドリリング方式によりクランクピンに供給されます。
2本のバランスシャフト(転がり軸受構造)が備わり、軸受けはケージド・ローラー・ベアリングです。
オフセットクランク
燃焼効率向上、振動・騒音の低減、耐久性向上を目的に、クランクシャフトの中心がシリンダーの中心線上にない位置にオフセットされています。
油圧系
オイルポンプはチェーンによって駆動力が伝達されます。可変容量型2段オイルポンプが搭載され、ソレノイドでポンプを低圧または高圧のモードに動的に切り替えて圧力と流量を調整します。また、各シリンダーボアに取り付けられたピストン冷却ジェットにオイルを送り、ピストン温度を制御してノッキングを軽減します。
ピストン
鋳造アルミ製のピストンは4つのバルブポケットとプラズマ溶射コーティングされたピストンリングを備えます。
オイルパン
オイルパンはアッパーとローワーが分割された2ピース構造で、オイルピックアップチューブとクランクシャフトの間にはウインデージ・トレイが備わっています。ウインデージ・トレイでオイルパンとクランクシャフトを仕切ることで、オイルがクランクシャフトの回転抵抗になるのを防ぐこと、オイルのエア噛みを防ぎ油圧を確保する効果があるとされています。
諸元
| 2024 ジープ・ラングラー | |
|---|---|
| 種類・シリンダー数 | 直列4気筒 DOHCターボ | 
| 内径X行程 (mm) | 84.0 x 90.0 | 
| 総排気量 (cc) | 1,995 | 
| 最高出力 (kW/rpm) | 200 (272ps) / 5,250 (ECE) | 
| 最大トルク (N・m/rpm) | 400 (40.8kg.m) / 3,000 (ECE) | 
最後に
これから少しずつ加筆・訂正・校正しようと思います。



 
	 
			 
			 
			 
			 
			 
			